注文の多い料理店

作者:宮沢賢治 約9分で読めます

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二人の若い紳士が、すつかりイギリスの兵隊のかたちをして、ぴか/\する鉄砲をかついで、白熊のやうな犬を二疋つれて、だいぶ山奥の、木の葉のかさ/\したとこを、こんなことを云ひながら、あるいてをりました。 「ぜんたい、こゝらの山は怪しからんね。鳥も獣も一疋も居やがらん。なんでも構はないから、早くタンタアーンと、やつて見たいもんだなあ。」 「鹿の黄いろな横つ腹なんぞに、二三発お見舞まうしたら、ずゐぶん痛快だらうねえ。くる/\まはつて、それからどたつと倒れるだらうねえ。」  それはだいぶの山奥でした。案内してきた専門の鉄砲打ちも、ちよつとまごついて、どこかへ行つてしまつたくらゐの山奥でした。  それに、あんまり山が物凄いので、その白熊のやうな犬が、二疋いつしよにめまひを起して、しばらく吠つて、それから泡を吐いて死んでしまひました。 「じつにぼくは、二千四百円の損害だ」と一人の紳士が、その犬の眼ぶたを、ちよつとかへしてみて言ひました。 「ぼくは二千八百円の損害だ。」と、もひとりが、くやしさうに、あたまをまげて言ひました。  はじめの紳士は、すこし顔いろを悪くして、じつと、もひとりの紳士の、顔つきを見ながら云ひました。 「ぼくはもう戻らうとおもふ。」 「さあ、ぼくもちやうど寒くはなつたし腹は空いてきたし戻らうとおもふ。」 「そいぢや、これで切りあげやう。なあに戻りに、昨日の宿屋で、山鳥を拾円も買つて帰ればいゝ。」 「兎もでてゐたねえ。さうすれば結局おんなじこつた。では帰らうぢやないか」  ところがどうも困つたことは、どつちへ行けば戻れるのか、いつかう見当がつかなくなつてゐました。  風がどうと吹いてきて、草はざわざわ、木の葉はかさかさ、木はごとんごとんと鳴りました。 「どうも腹が空いた。さつきから横つ腹が痛くてたまらないんだ。」 「ぼくもさうだ。もうあんまりあるきたくないな。」 「あるきたくないよ。あゝ困つたなあ、何かたべたいなあ。」 「喰べたいもんだなあ」  二人の紳士は、ざわざわ鳴るすゝきの中で、こんなことを云ひました。  その時ふとうしろを見ますと、立派な一軒の西洋造りの家がありました。  そして玄関には

RESTAURANT 西洋料理店 WILDCAT HOUSE 山猫軒

といふ札がでてゐました。 「君、ちやうどいゝ。こゝはこれでなかなか開けてるんだ。入らうぢやない

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底本:「宮沢賢治全集8」ちくま文庫、筑摩書房
出典:青空文庫(https://www.aozora.gr.jp/)