月夜のでんしんばしら

作者:宮沢賢治 約7分で読めます

月夜のでんしんばしらを縦書きで読む(Textfall)

ある晩、恭一はぞうりをはいて、すたすた鉄道線路の横の平らなところをあるいて居りました。  たしかにこれは罰金です。おまけにもし汽車がきて、窓から長い棒などが出ていたら、一ぺんになぐり殺されてしまったでしょう。  ところがその晩は、線路見まわりの工夫もこず、窓から棒の出た汽車にもあいませんでした。そのかわり、どうもじつに変てこなものを見たのです。  九日の月がそらにかかっていました。そしてうろこ雲が空いっぱいでした。うろこぐもはみんな、もう月のひかりがはらわたの底までもしみとおってよろよろするというふうでした。その雲のすきまからときどき冷たい星がぴっかりぴっかり顔をだしました。  恭一はすたすたあるいて、もう向うに停車場のあかりがきれいに見えるとこまできました。ぽつんとしたまっ赤なあかりや、硫黄のほのおのようにぼうとした紫いろのあかりやらで、眼をほそくしてみると、まるで大きなお城があるようにおもわれるのでした。  とつぜん、右手のシグナルばしらが、がたんとからだをゆすぶって、上の白い横木を斜めに下の方へぶらさげました。これはべつだん不思議でもなんでもありません。  つまりシグナルがさがったというだけのことです。一晩に十四回もあることなのです。  ところがそのつぎが大へんです。  さっきから線路の左がわで、ぐゎあん、ぐゎあんとうなっていたでんしんばしらの列が大威張りで一ぺんに北のほうへ歩きだしました。みんな六つの瀬戸もののエボレットを飾り、てっぺんにはりがねの槍をつけた亜鉛のしゃっぽをかぶって、片脚でひょいひょいやって行くのです。そしていかにも恭一をばかにしたように、じろじろ横めでみて通りすぎます。  うなりもだんだん高くなって、いまはいかにも昔ふうの立派な軍歌に変ってしまいました。

「ドッテテドッテテ、ドッテテド、  でんしんばしらのぐんたいは  はやさせかいにたぐいなし  ドッテテドッテテ、ドッテテド  でんしんばしらのぐんたいは  きりつせかいにならびなし。」

一本のでんしんばしらが、ことに肩をそびやかして、まるでうで木もがりがり鳴るくらいにして通りました。  みると向うの方を、六本うで木の二十二の瀬戸もののエボレットをつけたでんしんばしらの列が、やはりいっしょに軍歌をうたって進んで行きます。

「ドッテテドッテテ、ドッテテド  二本うで木の工兵隊  六本

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底本:「注文の多い料理店」新潮文庫、新潮社
出典:青空文庫(https://www.aozora.gr.jp/)