千代女
作者:太宰治 約20分で読めます
女は、やっぱり、駄目なものなのね。女のうちでも、私という女ひとりが、だめなのかも知れませんけれども、つくづく私は、自分を駄目だと思います。そう言いながらも、また、心の隅で、それでもどこか一ついいところがあるのだと、自分をたのみにしている頑固なものが、根づよく黒く、わだかまって居るような気がして、いよいよ自分が、わからなくなります。私は、いま、自分の頭に錆びた鍋でも被っているような、とっても重くるしい、やり切れないものを感じて居ります。私は、きっと、頭が悪いのです。本当に、頭が悪いのです。もう、来年は、十九です。私は、子供ではありません。 十二の時に、柏木の叔父さんが、私の綴方を「青い鳥」に投書して下さって、それが一等に当選し、選者の偉い先生が、恐ろしいくらいに褒めて下さって、それから私は、駄目になりました。あの時の綴方は、恥ずかしい。あんなのが、本当に、いいのでしょうか。どこが、いったい、よかったのでしょう。「お使い」という題の綴方でしたけれど、私がお父さんのお使いで、バットを買いに行った時の、ほんのちょっとした事を書いたのでした。煙草屋のおばさんから、バットを五つ受取って、緑のいろばかりで淋しいから、一つお返しして、朱色の箱の煙草と換えてもらったら、お金が足りなくなって困った。おばさんが笑って、あとでまた、と言って下さったので嬉しかった。緑の箱の上に、朱色の箱を一つ重ねて、手のひらに載せると、桜草のように綺麗なので、私は胸がどきどきして、とても歩きにくかった、というような事を書いたのでしたが、何だか、あまり子供っぽく、甘えすぎていますから、私は、いま考えると、いらいらします。また、そのすぐ次に、やっぱり柏木の叔父さんにすすめられて、「春日町」という綴方を投書したところが、こんどは投書欄では無しに、雑誌の一ばんはじめのペエジに、大きな活字で掲載せられて居りました。その、「春日町」という綴方は、池袋の叔母さんが、こんど練馬の春日町へお引越しになって、庭も広いし、是非いちど遊びにいらっしゃいと言われて私は、六月の第一日曜に、駒込駅から省線に乗って、池袋駅で東上線に乗り換え、練馬駅で下車しましたが、見渡す限り畑ばかりで、春日町は、どの辺か見当が附かず、野良の人に聞いてもそんなところは知らん、というので私は泣きたくなりました。暑い日でした。リヤカアに、サイダアの空瓶を一
底本:「太宰治全集4」ちくま文庫、筑摩書房
入力:柴田卓治 校正:青木直子
出典:青空文庫(https://www.aozora.gr.jp/cards/000035/card248.html)