いなか、の、じけん

作者:夢野久作 約1時間5分で読めます

いなか、の、じけんを縦書きで読む(Textfall)

大きな手がかり

村長さんの処の米倉から、白米を四俵盗んで行ったものがある。  あくる朝早く駐在の巡査さんが来て調べたら、俵を積んで行ったらしい車の輪のあとが、雨あがりの土にハッキリついていた。そのあとをつけて行くと、町へ出る途中の、とある村外れの一軒屋の軒下に、その米俵を積んだ車が置いてあって、その横の縁台の上に、頬冠りをした男が大の字になって、グウグウとイビキをかいていた。引っ捕えてみるとそれは、その界隈で持てあまし者の博奕打ちであった。  博奕打ちは盗んだ米を町へ売りに行く途中、久し振りに身体を使ってクタビレたので、チョットのつもりで休んだのが、思わず寝過ごしたのであった。  腰縄を打たれたまま車を引っぱってゆく男の、うしろ姿を見送った人々は、ため息して云った。 「わるい事は出来んなあ」

按摩の昼火事

五十ばかりになって一人住居をしている後家さんが、ひる過ぎに近所まで用足しに行って帰って来ると、開け放しにしておいた自分の家の座敷のまん中に、知り合いの按摩がラムプの石油を撒いて火を放けながら、煙に噎せて逃げ迷っている……と思う間もなく床柱に行き当って引っくり返ってしまった。  後家さんは、めんくらった。 「按摩さんが火事火事」  と大声をあげて村中を走りまわったので、忽ち人が寄って来て、大事に到らずに火を消し止めた。気絶した按摩は担ぎ出されて、水をぶっかけられるとすぐに蘇生したので、あとから駈けつけた駐在巡査に引渡された。  大勢に取り捲かれて、巡査の前の地べたに坐った按摩は、水洟をこすりこすりこう申し立てた。 「まったくの出来心で御座います。声をかけてみたところが留守だとわかりましたので……」 「それからどうしたか」  と巡査は鉛筆を嘗めながら尋ねた。皆はシンとなった。 「それで台所から忍び込みますと、ラムプを探り当てましたので、その石油を撒いて火をつけましたが、思いがけなく、うしろの方からも火が燃え出して熱くなりましたので、うろたえまして……雨戸は閉まっておりますし、出口の方角はわからず……」  きいていた連中がゲラゲラ笑い出したので、按摩は不平らしく白い眼を剥いて睨みまわした。巡査も吹き出しそうになりながら、ヤケに鉛筆を舐めまわした。 「よしよし。わかっとるわかっとる。ところで、どういうわけで火を放けたんか」 「ヘエ。それはあの後家めが」  と按摩

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底本:「夢野久作全集4」ちくま文庫、筑摩書房
入力:柴田卓治 校正:江村秀之
出典:青空文庫(https://www.aozora.gr.jp/cards/000096/card919.html)