ひのきとひなげし

作者:宮沢賢治 約7分で読めます

ひのきとひなげしを縦書きで読む(Textfall)

ひなげしはみんなまっ赤に燃えあがり、めいめい風にぐらぐらゆれて、息もつけないようでした。そのひなげしのうしろの方で、やっぱり風に髪もからだも、いちめんもまれて立ちながら若いひのきが云いました。 「おまえたちはみんなまっ赤な帆船でね、いまがあらしのとこなんだ」 「いやあだ、あたしら、そんな帆船やなんかじゃないわ。せだけ高くてばかあなひのき。」ひなげしどもは、みんないっしょに云いました。 「そして向うに居るのはな、もうみがきたて燃えたての銅づくりのいきものなんだ。」 「いやあだ、お日さま、そんなあかがねなんかじゃないわ。せだけ高くてばかあなひのき。」ひなげしどもはみんないっしょに叫びます。  ところがこのときお日さまは、さっさっさっと大きな呼吸を四五へんついてるり色をした山に入ってしまいました。  風が一そうはげしくなってひのきもまるで青黒馬のしっぽのよう、ひなげしどもはみな熱病にかかったよう、てんでに何かうわごとを、南の風に云ったのですが風はてんから相手にせずどしどし向うへかけぬけます。  ひなげしどもはそこですこうししずまりました。東には大きな立派な雲の峰が少し青ざめて四つならんで立ちました。  いちばん小さいひなげしが、ひとりでこそこそ云いました。 「ああつまらないつまらない、もう一生合唱手だわ。いちど女王にしてくれたら、あしたは死んでもいいんだけど。」  となりの黒斑のはいった花がすぐ引きとって云いました。 「それはもちろんあたしもそうよ。だってスターにならなくたってどうせあしたは死ぬんだわ。」 「あら、いくらスターでなくってもあなたの位立派ならもうそれだけで沢山だわ。」 「うそうそ。とてもつまんない。そりゃあたしいくらかあなたよりあたしの方がいいわねえ。わたしもやっぱりそう思ってよ。けどテクラさんどうでしょう。まるで及びもつかないわ。青いチョッキの虻さんでも黄のだんだらの蜂めまでみなまっさきにあっちへ行くわ。」  向うの葵の花壇から悪魔が小さな蛙にばけて、ベートーベンの着たような青いフロックコートを羽織りそれに新月よりもけだかいばら娘に仕立てた自分の弟子の手を引いて、大変あわてた風をしてやって来たのです。 「や、道をまちがえたかな。それとも地図が違ってるか。失敗。失敗。はて、一寸聞いて見よう。もしもし、美容術のうちはどっちでしたかね。」  ひなげしはあんまり

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底本:「新編 銀河鉄道の夜」新潮文庫、新潮社
入力:土屋隆 校正:noriko saito
出典:青空文庫(https://www.aozora.gr.jp/cards/000081/card1920.html)