貝の火
作者:宮沢賢治 約25分で読めます
今は兎たちは、みんなみじかい茶色の着物です。 野原の草はきらきら光り、あちこちの樺の木は白い花をつけました。 実に野原はいいにおいでいっぱいです。 子兎のホモイは、悦んでぴんぴん踊りながら申しました。 「ふん、いいにおいだなあ。うまいぞ、うまいぞ、鈴蘭なんかまるでパリパリだ」 風が来たので鈴蘭は、葉や花を互いにぶっつけて、しゃりんしゃりんと鳴りました。 ホモイはもううれしくて、息もつかずにぴょんぴょん草の上をかけ出しました。 それからホモイはちょっと立ちどまって、腕を組んでほくほくしながら、 「まるで僕は川の波の上で芸当をしているようだぞ」と言いました。 本当にホモイは、いつか小さな流れの岸まで来ておりました。 そこには冷たい水がこぼんこぼんと音をたて、底の砂がピカピカ光っています。 ホモイはちょっと頭を曲げて、 「この川を向こうへ跳び越えてやろうかな。なあに訳ないさ。けれども川の向こう側は、どうも草が悪いからね」とひとりごとを言いました。 すると不意に流れの上の方から、 「ブルルル、ピイ、ピイ、ピイ、ピイ、ブルルル、ピイ、ピイ、ピイ、ピイ」とけたたましい声がして、うす黒いもじゃもじゃした鳥のような形のものが、ばたばたばたばたもがきながら、流れて参りました。 ホモイは急いで岸にかけよって、じっと待ちかまえました。 流されるのは、たしかにやせたひばりの子供です。ホモイはいきなり水の中に飛び込んで、前あしでしっかりそれをつかまえました。 するとそのひばりの子供は、いよいよびっくりして、黄色なくちばしを大きくあけて、まるでホモイのお耳もつんぼになるくらい鳴くのです。 ホモイはあわてて一生けん命、あとあしで水をけりました。そして、 「大丈夫さ、 大丈夫さ」と言いながら、その子の顔を見ますと、ホモイはぎょっとしてあぶなく手をはなしそうになりました。それは顔じゅうしわだらけで、くちばしが大きくて、おまけにどこかとかげに似ているのです。 けれどもこの強い兎の子は、決してその手をはなしませんでした。怖ろしさに口をへの字にしながらも、それをしっかりおさえて、高く水の上にさしあげたのです。 そして二人は、どんどん流されました。ホモイは二度ほど波をかぶったので、水をよほどのみました。それでもその鳥の子ははなしませんでした。 するとちょうど、小
底本:「銀河鉄道の夜」角川文庫、角川書店
入力:ゆかこ 校正:林幸雄
出典:青空文庫(https://www.aozora.gr.jp/cards/000081/card1942.html)