クねずみ
作者:宮沢賢治 約10分で読めます
クという名前のねずみがありました。たいへん高慢でそれにそねみ深くって、自分をねずみの仲間の一番の学者と思っていました。ほかのねずみが何か生意気なことを言うとエヘンエヘンと言うのが癖でした。 クねずみのうちへ、ある日、友だちのタねずみがやって来ました。 さてタねずみはクねずみに言いました。 「今日は、クさん。いいお天気です。」 「いいお天気です。何かいいものを見つけましたか。」 「いいえ。どうも不景気ですね。どうでしょう。これからの景気は。」 「さあ、あなたはどう思いますか。」 「そうですね。しかしだんだんよくなるのじゃないでしょうか。オウベイのキンユウはしだいにヒッパクをテイしたそう……。」 「エヘン、エヘン。」いきなりクねずみが大きなせきばらいをしましたので、タねずみはびっくりして飛びあがりました。クねずみは横を向いたまま、ひげを一つぴんとひねって、それから口の中で、 「ヘイ、それから。」と言いました。 タねずみはやっと安心してまたおひざに手を置いてすわりました。 クねずみもやっとまっすぐを向いて言いました。 「先ころの地震にはおどろきましたね。」 「全くです。」 「あんな大きいのは私もはじめてですよ。」 「ええ、ジョウカドウでしたねえ。シンゲンはなんでもトウケイ四十二度二分ナンイ……。」 「エヘン、エヘン。」 クねずみはまたどなりました。 タねずみはまた面くらいましたが、さっきほどではありませんでした。 クねずみはやっと気を直して言いました。 「天気もよくなりましたね。あなたは何かうまい仕掛けをしておきましたか。」 「いいえ、なんにもしておきません。しかし、今度天気が長くつづいたら、私は少し畑の方へ出てみようと思うんです。」 「畑には何かいいことがありますか。」 「秋ですからとにかく何かこぼれているだろうと思います。天気さえよければいいのですがね。」 「どうでしょう。天気はいいでしょうか。」 「そうですね、新聞に出ていましたが、オキナワレットウにハッセイしたテイキアツは次第にホクホクセイのほうへシンコウ……。」 「エヘン、エヘン。」クねずみはまたいやなせきばらいをやりましたので、タねずみはこんどというこんどはすっかりびっくりして半分立ちあがって、ぶるぶるふるえて目をパチパチさせて、黙りこんでしまいました。 クねずみは横の方を向いて、おひげをひっ
底本:「童話集 銀河鉄道の夜 他十四編」谷川徹三編、岩波文庫、岩波書店
入力:のぶ 校正:鈴木厚司
出典:青空文庫(https://www.aozora.gr.jp/cards/000081/card1946.html)