ツェねずみ

作者:宮沢賢治 約8分で読めます

ツェねずみを縦書きで読む(Textfall)

ある古い家の、まっくらな天井裏に、「ツェ」という名まえのねずみがすんでいました。  ある日ツェねずみは、きょろきょろ四方を見まわしながら、床下街道を歩いていますと、向こうからいたちが、何かいいものをたくさんもって、風のように走って参りました。そしてツェねずみを見て、ちょっとたちどまって早口に言いました。 「おい、ツェねずみ。お前んとこの戸棚の穴から、金米糖がばらばらこぼれているぜ。早く行ってひろいな。」  ツェねずみは、もうひげもぴくぴくするくらいよろこんで、いたちにはお礼も言わずに、いっさんにそっちへ走って行きました。ところが戸棚の下まで来たとき、いきなり足がチクリとしました。そして、「止まれ、だれかっ。」と言う小さな鋭い声がします。  ツェねずみはびっくりしてよく見ますと、それは蟻でした。蟻の兵隊は、もう金米糖のまわりに四重の非常線を張って、みんな黒いまさかりをふりかざしています。二三十匹は金米糖を片っぱしから砕いたり、とかしたりして、巣へはこぶしたくです。ツェねずみはぶるぶるふるえてしまいました。 「ここから内へはいってならん。早く帰れ。帰れ、帰れ。」蟻の特務曹長が、低い太い声で言いました。  ねずみはくるっと一つまわって、いちもくさんに天井裏へかけあがりました。そして巣の中へはいって、しばらくねころんでいましたが、どうもおもしろくなくて、おもしろくなくて、たまりません。蟻はまあ兵隊だし、強いからしかたもないが、あのおとなしいいたちめに教えられて、戸棚の下まで走って行って蟻の曹長にけんつくを食うとは、なんたるしゃくにさわることだとツェねずみは考えました。そこでねずみは巣からまたちょろちょろはい出して、木小屋の奥のいたちの家にやって参りました。  いたちはちょうど、とうもろこしのつぶを、歯でこつこつかんで粉にしていましたが、ツェねずみを見て言いました。 「どうだ。金米糖がなかったかい。」 「いたちさん。ずいぶんお前もひどい人だね。私のような弱いものをだますなんて。」 「だましゃせん。たしかにあったのや。」 「あるにはあっても、もう蟻が来てましたよ。」 「蟻が、へい。そうかい。早いやつらだね。」 「みんな蟻がとってしまいましたよ。私のような弱いものをだますなんて、償うてください。償うてください。」 「それはしかたない。お前の行きようが少しおそかったのや。」 「知

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底本:「童話集 銀河鉄道の夜 他十四編」岩波文庫、岩波書店
入力:のぶ 校正:noriko saito
出典:青空文庫(https://www.aozora.gr.jp/cards/000081/card1949.html)