日本楽器の名称

作者:寺田寅彦 約6分で読めます

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楽器の歴史は非常に古いものである。そして、現在ある国民やある民族に固有であるらしく見えるものでも実際はかなり複雑な因果の網目を伝わって遠い外国の楽器と親族関係になっているものらしい。もっともこれは楽器に限らずあらゆる人間の文化の産物について共通な事であって言語風俗等いずれについても同様であるには相違ないが、原始的な器械的発明としての楽器などはそういう関係を知るに比較的都合のいいものと考えられる。そういう考えから、素人の道楽半分に少しばかり調べてみた結果をこの昭和三年の初春のにぎわいまでに書いてみる。もちろん玄人筋の考証家には一笑の値もないものであろう。 (三味線) 三弦、三線、三皮前、三びせんなどいろいろの名がある。『嬉遊笑覧』や『松屋三絃考』を見ただけでもたくさんな文献が並べ立ててあるが、いっこうに要領を得難い。永禄あるいは文禄年間に琉球から伝わった蛇皮線を日本人の手で作りかえた、それがだんだんポピュラーになったものらしい。それからシナの楽器の阮咸と三味線とが同一だとか、そうでないとかいう議論がある。また、元の時代のかの地の三弦一名コフジ、一名コフシ、一名クヮフシ、一名コハシなど称するものと関係があるような、またないようなことも書いてある。またこのゲンカンは竹林七賢人の一人の名だとの説もある。  ところがちょっと妙なことには、このゲンカンの文字を今のシナ音で読むとジャンシェンとなるのである。またこのコハシあるいはコフジに相当するものと思われる類似の楽器の類似の名前がヨーロッパ、アジア、アフリカ、南洋のところどころに散在しているのが目につく。たとえばリュート類似の弦楽器として概括さるべきものに、トルコのコプズ、ルーマニアのコブサ、またコブズ、ロシヤ、ハンガリーへんのコボズなどがある。それからシベリアの一地方でコムスというのは、ふくれた胴に皮が張ってあるが、弦は二本で五度に合わすとある。振るっているのはホッテントットの用いる三弦の弦楽器にガボウイというのがあり、ザンジバルの胡弓にガブスというのがある。また一方では南洋セレベスにある金属弦ただ一本のカボシがある。それからまたアラビアの四弦の胡弓にシェルシェンクというのがあるのも妙である。 (尺八) シナの洞簫、昔の一節切、尺八、この三つが関係のある事は確実らしい。足利時代に禅僧が輸入したような話があるかと思うと、十四世

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底本:「寺田寅彦随筆集 第二巻」小宮豊隆編、岩波文庫、岩波書店
入力:(株)モモ 校正:かとうかおり
出典:青空文庫(https://www.aozora.gr.jp/cards/000042/card2456.html)