一連の非プロレタリア的作品 「亀のチャーリー」「幼き合唱」「樹のない村」
作者:宮本百合子 約25分で読めます
一連の非プロレタリア的作品 「亀のチャーリー」「幼き合唱」「樹のない村」を縦書きで読む(Textfall)
十月下旬行われた作家同盟主催の文学講習会のある夜、席上でたまたま「亀のチャーリー」が討論の中心となった。ある講習会員が「亀のチャーリー」をとりあげ、その作品は一般読者の間で評判がよく親しみをもって読まれたから、ああいう肩のこらない作品の型もプロレタリア文学の中にあってよいのではないかという風に問題をおこし、プロレタリア文学のジャンルの問題に連関させていた。 その晩、自分は最後の時間をうけもっていたのでおそく出席し、そもそもその講習会員がどんな発端からそういう話をはじめたのかわからず、鹿地亘が意見を述べるのを聞いていた。「亀のチャーリー」について問題とすべきはプロレタリア文学としての創作方法の問題であって、ジャンルの問題ではないということが説明されていた。自分はそのとき「亀のチャーリー」をよんでいなかった。帰って注意ぶかく読んだが、はたして「亀のチャーリー」はプロレタリア文学の中にあってもよいという種類の肩のこらぬ作品であったろうか? 藤森成吉が『改造』九月号に発表した小説「亀のチャーリー」は、三十年もアメリカに移民労働者として辛苦の生活をしている動物と子供のすきな日本人中野が、市場で亀をひろって育てたことから亀のチャーリーとあだ名され、アメリカの子供の人気を博しつつ、日本の切手や菓子その他を宣伝用具として子供らを教育し、ピオニイルに仕立ててゆく。亀のチャーリーは相もかわらず貧乏で冬じゅう何も食わぬ二匹の亀の子とボロ靴下を乾したニューヨークの小部屋では五セントの鱈の頭を食って暮しているがピオニイルはゾクゾク殖えてゆくという物語を、五章からなるエピソード的構成で書いているのである。 小説の冒頭には、ワシントン百年祭当日、アメリカの共産党によって指導された民衆の、中国から手をひけ、ソヴェト同盟を守れ、とスローガンをかかげた大衆的示威運動の光景が描かれ、チャーリー中野もそれに参加したと紹介されている。ニューヨークの反戦デモに参加するばかりか、中野は三十年間転々としてアメリカであらゆる労役に従事していた間に、鉱山の大ストライキにプロレタリアとして夜も眠らず働いたことがある。なおかつ現在では自分の周囲におけるアメリカの子供の中からピオニイルを養成しているというのであるから、おそらく日本移民労働者の一人として、アメリカ共産党に組織されているのであろう。 「亀のチャーリー」
続きを読む — 一連の非プロレタリア的作品 「亀のチャーリー」「幼き合唱」「樹のない村」|Textfall
底本:「宮本百合子全集 第十巻」新日本出版社
入力:柴田卓治 校正:米田進
出典:青空文庫(https://www.aozora.gr.jp/cards/000311/card2839.html)