「我らの誌上相談」
作者:宮本百合子 約14分で読めます
病母と弟を抱えて
お手紙拝見しました。あなたのお心持の入りまじった苦しいところはよくわかります。ましてあなたの場合、まだきまった対手が姿をあらわしていないから、いろいろそれを根拠として具体的な相談をすすめて行く条件が、あなた御自身にもわかっていない。いわば、空をつかむような心配です。 従って、私たちにしろ、山田さんと同じように実際の対手が出来た上で、家へ一緒に住むかどうかということを定めるしかないと云う返事のほか出来ません。 ただ、あなたの手紙で感じた一つのことを云いますと、それは、あなたがボンヤリながら、今の世の中にそういう境遇におかれた若い女の結婚難というものに恐怖を抱いていられるという事です。 夫と家へ一緒に住もうか住むまいか? 若い弟嫁と母とだけでは心配だという心持のかげには、自分の複雑な家庭の事情が、対手を面倒がらせ逃がしてはしまうまいかという焦慮がひそんでいると思います。 そして又実際、多くの男は、女に大した財産でもあれば別ですが、さもなければ女の実家の厄介は背負いたがらないものです。あなたの悩みも、つまりは、どの男でも妻であるあなたの実家の商売、病身な母などについて快よく心労をわけあってくれるとは云えないと感じているところにあるのでしょう。 こういう悩みをもつ若い女はあなた一人だと思ったら大ちがいです。都会にだって、幾千人あなたと同じ苦しみをもっている若い女がいるかしれません。 親は娘としてどこまでも自分に尽してほしがる。夫は夫で妻というものを夫の利益のためだけに考える。仲にはさまれ、切ないのは娘です。親からは、親をすてる気か! と云われ、男からは親の方が大切か! とやられ、到頭運命とあきらめ若い年月をただ工場の埃に埋もれて暮している人も少くないのです。 だが、何故今の世の中では、こういう結婚難があり、親の勝手、夫の勝手というものに若い女が挾まれて苦しむことが多いのでしょう。 わたし達は、その原因まで深くさかのぼって考えて見なければ、めいめいの境遇についても覚悟がきまらないと思います。 こういう苦しみは、みんな資本主義の世の中であることが原因です。めいめいの私有財産をつたえ守るために家族制度が発達して来ています。一軒の家の中だけでかたまり、儲けをこっそり一軒の家の中へだけためて行く。(大きくなれば三井、三菱)損をし
底本:「宮本百合子全集 第十四巻」新日本出版社
入力:柴田卓治 校正:米田進
出典:青空文庫(https://www.aozora.gr.jp/cards/000311/card3081.html)