日は輝けり

作者:宮本百合子 約2時間10分で読めます

日は輝けりを縦書きで読む(Textfall)

一

K商店の若い者達の部屋は、今夜も相変らず賑やかである。まぶしいほど明るい電燈の下に、輝やいた幾つもの顔が、彼等同志の符牒のようになっているあだ名や略語を使って、しきりに噂の花を咲かせている。  けれども、変幅対と呼ばれている二人の若者は、いつもの通り、隅の方へ机を引き寄せて、一人は手紙を書き一人は拡げた紙一杯に、三角や円を描き散らしていた。「三角形BCEト、三角形DCFトノ外切円ノ交点ヲGトシ…………」  崩れるような笑声が、広い部屋中の空気を震動させて、彼のまとまりかけた考えと共に、狭い窓から、広い外へ飛び出してしまった。若者は苦々しそうに舌打をして、上気せた耳をおさえながら鉛筆を投げ出すと、立って向うの隅にいるもう一人の処へ行った。  彼は杵築庸之助という本名で、木綿さんというあだ名を持っている。人間は黒木綿の着物と、白木綿の兵児帯で、どんなときでも充分だという主義を持っていて、夏冬共その通り実行していたからなのである。ときには滑稽だとほかいいようのないほど、馬鹿正直な、生一本な彼は、他の若い者の仲間からはずれた挙動ばかりしている。冗談も云わず、ろくに笑いもしない。徹頭徹尾謹厳だといわれたがっているように見られた庸之助は、或る意味の嫉視と侮蔑から変物扱いにされていたのである。武士道の遵奉者であった。 「浩さん! 手紙か?」彼は仲間の上に身をかがめた。 「うん。もう君はお止めなのかい? まだいつもより早いんじゃあないか!」 「駄目だよ。奴等の騒で考えも何もめちゃめちゃだ。何があんなにおかしいんだ。娘っ子のように暇さえあれば、ゲラゲラ、ゲラゲラ、笑ってばかりいやがる」  庸之助は、浩に対してよりも、もっと当つけらしい口調で云った。一つ二つの顔が振向いた。そしてもう一層の大笑いが、壁をゆするようにして起った。彼の口小言を嘲笑したのはいうまでもない。 「あれだ! 見ろ‼」 「まあ君、そんなに怒ったって駄目だよ。宿直へでも行ったら好いじゃあないか、あすこならお爺さん一人で静かなもんだよ」 「なに好いよ。今夜は……誰れ? お父さんかい?」 「ああ手間ばっかりかかってね」 「姉さんのことでも云ってやるのかい。同胞があると、お互に三人分も四人分も心配しなけりゃあならないねえ。結句僕のように独りっきりだと、そんな心配は要らないで、さっぱりとしている。まあ書

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底本:「宮本百合子全集 第一巻」新日本出版社
入力:柴田卓治 校正:松永正敏
出典:青空文庫(https://www.aozora.gr.jp/cards/000311/card2026.html)