少年と秋の日
作者:小川未明 約5分で読めます
もう、ひやひやと、身にしむ秋の風が吹いていました。原っぱの草は、ところどころ色づいて、昼間から虫の鳴き声がきかれたのです。 正吉くんは、さっきから、なくしたボールをさがしているのでした。 「不思議だな、ここらへころがってきたんだけど。」 どうしたのか、そのボールは見つかりませんでした。お隣の勇ちゃんは、用事ができて帰ってしまったけれど、彼だけは、まだ、思いきれなかったのでした。ボールがほしいというよりは、どこへいったものか、消えてなくならないかぎり、このあたりに落ちているものと思ったからです。 この広い原っぱには、ほかにだれも遊んではいませんでした。彼は、勇ちゃんが、スパイクを買ってもらったら、自分もお母さんに買ってもらうお約束があるので、さっきも勇ちゃんと、その話をしていたのでした。 「ね、君は、いつスパイクを買ってもらうの?」 「お父さんが、旅行からお帰りになったら。」と、勇ちゃんはいいました。 「君が、買ってもらったら、ぼくにも買ってやると、お母さんがいったよ。」 二人は、早くその日のくるのが楽しみだったのです。 正吉くんは、いまも、そのことを考えていると、ふいに、 「君、なにかさがしているの?」と、後方で、声がしました。おどろいて振り向くと、知らない子が立っていました。 「りゅうのひげなら、あすこにたくさんあるよ。ぼくもりゅうのひげの実を取りにきたのだ。」と、知らない子が、いいました。 「りゅうのひげ?」 「ああ、りゅうのひげさ、君、まだ知らないの?」 「僕、りゅうのひげの実を見たことがないよ。」と、正吉くんはいいました。 知らない子は、先になって駆け出しました。 「君、ここに、こんなになっているだろう。」と、足もとのしげった草の中をさしました。そこにも、冷たい秋の風はあって、細くて長いひげのような草の葉を動かしていました。 なるほど、手で草をわけてみると、濃紫の小さい美しい実が、重なり合うようにしてなっていました。 「僕の妹が、ほしいというので、僕、さがしにきたのだ。」と、知らない子は、いいました。 「君は、りゅうのひげの実を取りにきたのかい。僕は、ボールをなくしたので、さがしているのだ。」と、正吉くんは、いいました。 「そうか、あったかい。ないの? 僕、さがすのは、とてもうまいんだぜ。」 知らない子は、りゅうのひげをポケットに入れて、そ
底本:「定本小川未明童話全集 10」講談社
出典:青空文庫(https://www.aozora.gr.jp/)