野菊の花

作者:小川未明 約6分で読めます

野菊の花を縦書きで読む(Textfall)

一

正二くんの打ちふる細い竹の棒は、青い初秋の空の下で、しなしなと光って見えました。 「正ちゃん、とんぼが捕れたかい。」  まだ、草のいきいきとして、生えている土の上を飛んで、清吉は、こちらへかけてきました。 「清ちゃん、僕いまきたばかりなのさ。あの桜の木の下に、犬が捨ててあるよ。」と、正二はこのとき、鳥の飛んでいく方を指しながら、いいました。 「ほんとう、どんな犬の子?」 「白と黒のぶちで、耳が垂れていて、かわいいよ。」 「それで、どうしたの。」と、清吉は、ききました。 「みんな、見てるよ。」 「困るね。僕たちの遊ぶ原っぱへ捨てるなんて、だれだろうなあ。」  清吉の心は、もうそのほうへ奪われてしまいました。  棒を持った正二も、清吉についてきました。  二人は、並んで歩きながら、話をしました。 「このあいだ、どこかの若いおばさんが、ねこの子をこの原っぱへ捨てにきたとき、正ちゃんはおらなかったかな。」 「ああ、おったとも。僕たち、ボールを投げていたじゃないか。まだ三十ぐらいのやさしそうなおばさんだったろう。」 「なにがやさしいものか。だれか見ていないかと、くるくるあたりを見まわしてから、ふいに、ぽいとねこの子を草の中へ投げたんだよ。ねこはニャア、ニャアと泣いている。あまりかわいそうだから、僕、おばさんを追いかけたのだ。なんでねこの子をこんなところへ捨てるんですか、かわいそうじゃありませんかといったのさ。」 「そうだったね。」 「そうすると、おばさんは、怖い目をして僕の方を振り返ったんだよ。うちのねこじゃありませんよ、お勝手へ入ってきてうるさいから、ここへ持ってきて置いていくのですと。」  清吉は、そのときのことを思い出すと、いまでも小さな胸が、熱くなるのを覚えました。 「しかし、よかったね。洋服屋のおじさんがちょうど通りかかって、ねずみが出て困っているのだからといって、つれていってくれたので。」と、正二は、いいました。 「あのねこ、どうしたろうね。」 「いるよ。僕このあいだ前を通ったら、ガラス戸の中で、表の方を向いて、顔を洗っているのが見えた。」 「手をなめて、顔を洗っていたの、かわいいなあ。」  清吉も、この話をきいて、目を細くして笑いました。 「犬も、ねこも、みんななにも知らないので、かわいいよ。」 「それだのに、この原っぱへ捨てるなんて、こんど、ここへ犬や

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底本:「定本小川未明童話全集 13」講談社
出典:青空文庫(https://www.aozora.gr.jp/)