爆弾太平記
作者:夢野久作 約1時間25分で読めます
……ああ……酔うた酔うた。 ……どうだ斎木……モ一つ行こう。脊髄癆ぐらい酒を飲めば癒るよ。ちょっとも酔わんじゃないか君は……。 ナニ……恐ろしい暴風雨だ?……。 ウン。近来珍らしい二百二十日だよ。夜半過ぎたら風速四十米突を越すかも知れん。……おまけにここは朝鮮最南端の絶影島だ。玄海灘と釜山の港内を七分三分に見下ろした巌角の上の一軒家と来ているんだからね。一層風当りがヒドイ訳だよ。……世界の涯に来たような気がする……ハハハ。しかしこの家なら大丈夫だよ。その覚悟で建てた赤煉瓦の温突式だからね。憚りながら酒樽と米だけは、ちゃんとストックして在るんだ。十日や十五日シケ続けたって驚かないよ。ハハハ……。 イヤ。よく来てくれた。吾輩の竹馬の友といったら、今では君一人なんだからね。もう一人居た福岡県知事の佐々木が、ツイこの間死んでしまったからね……ウン。太っ腹ないい男だったが、可愛相な事をしたよ。何でも視察旅行の途中で、自動車もろ共、谷へ落ちたというんだが、人間、何で死ぬか知れたもんじゃないね。……しかも、その跡に残ったタッタ一人の君が二十年振りに、貴重な静養休暇を利用して、この天涯の素浪人、轟雷雄の隠れ家を叩きに来ようとは思わなかったよ。 イヤ……実に意外だった。君の顔を見た瞬間に、故郷の禿山が彷彿として眼前に浮んだね。イヤ。禿げているから云うんじゃない……アハハハ。今夜はこの風を肴に飲み明かそうじゃないか。お互いに「頭禿げてもお酒は止まぬ」組だったじゃないか。ハッハッハッ。風が凪いだら一つ東莱温泉へ案内しよう。あすこでモウ一度俗腸を洗って、大いに天下国家を……。 ナニ……吾輩が首になった原因を話せと云うのか……。 ハハハハ。それあ話しても宜え。吾輩としては俯仰天地に愧じない事件で首を飛ばされたんだから、イクラ話しても構わんには構わんが、しかしだ。君はホントウに吾輩の云う事を事実と信じて聞いてくれるかね。エエ……?……。 イヤ。失敬失敬。それはわかっとる。重々わかっとる。君が吾輩を信じてくれる事はトコトンまで疑わんが、しかしそれでも吾輩の休職の裏面に潜む事件の真相なるものが、到底、常識では信ぜられんくらい悽愴、惨憺、醜怪、非道を極めたものがあるから、特に念を押す訳だよ。 手早い話が、吾輩の首をフッ飛ばした事件の真相を突込んで行くと一つのスバラシイ復讐事件にブ
底本:「夢野久作全集6」ちくま文庫、筑摩書房
入力:柴田卓治 校正:土屋隆
出典:青空文庫(https://www.aozora.gr.jp/cards/000096/card2102.html)