探偵小説の真使命

作者:夢野久作 約7分で読めます

探偵小説の真使命を縦書きで読む(Textfall)

探偵小説が下火になって来た。曾ての勃興当時、作者と読者とが熱狂して薪を投じ油を注いだ炬火は、今や冷めたい灰になりかかっている。  曾ての自然主義文芸がそうであったように……。  自由民権思想がそうであったように……。  人類の趣味傾向が、かくして遂にドン底を突いてしまったのだ。  明治維新以来、西洋文化の輸入に影響されて日本人の趣味が急劇に低下して来た。以前から忌避し軽蔑されていた肉慾描写や、不倫の世相が、自然主義の輸入以来逆照され初めた。人間が不合理視され、禽獣道が合理視されるようになった。それは、たしかに新しい傾向であった。  ところが明治末期から大正以降に於ける探偵小説の流行は、そうした傾向を更に低級化し、深刻化した。モット尖鋭な肉慾や露骨な犯罪心理に深入りする趣味を、日本人に逆照して見せた。そうしてその逆照手段が本格、変格のあらゆる角度に向って急速に分析され、分科され、単純化され、平凡化されていく中に、その各分科毎に専門的に行詰まり、飽きられ、軽視され、忘却されて行きつつある。

探偵小説はだから、今やその最後の牙城に逃込みつつある。……曰く……  探偵小説の真価値は、そのトリックに在る。謎々の興味に懸っている。そうした興味によって読者を最後まで引っぱって行ってから、これに意外な解決と満足を与えるのが、探偵小説の唯一無上の神聖な本領である。だから、探偵小説は生命、貞操、金銭、宝石、紙片なぞいう人間の欲しがり騒ぎまわるところの最低級、浅劣なシロモノを、そのトリック、謎々の核心として、全篇の興味を織出して行かねばならぬ。  だから探偵小説は芸術であってはならない。  エロ、グロ、ノンセンス、ユウモア等の謎々以外の風味を含ませるのは探偵小説の邪道、堕落道である。冒険、神秘、怪奇、変態心理、等々々の名を冠らせ得る小説は、探偵小説界の外道、寄生虫でしか在り得ない。そんなものは皆、この真の探偵小説界の非常時に際して、変格の名の下に、強烈な下剤を以て探偵小説界から駆除されなければならないのだ。  探偵小説はどこまでも探偵小説として、ストーリー本位の使命を守って行かねばならない。単なる謎々の筋書のみを守って行く所謂本格に生きて行かねばならないのだ。  しかもその本格モノを書ける作者は現在の日本に極く少数しか居ない。のみならずその少数者は結局「一人二役」「探偵即犯人」「偽

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底本:「夢野久作全集11」ちくま文庫、筑摩書房
入力:柴田卓治 校正:小林徹
出典:青空文庫(https://www.aozora.gr.jp/cards/000096/card2135.html)