狐
作者:新美南吉 約11分で読めます
一
月夜に七人の子供が歩いておりました。 大きい子供も小さい子供もまじっておりました。 月は、上から照らしておりました。子供たちの影は短かく地べたにうつりました。 子供たちはじぶんじぶんの影を見て、ずいぶん大頭で、足が短いなあと思いました。 そこで、おかしくなって、笑い出す子もありました。あまりかっこうがよくないので二、三歩はしって見る子もありました。 こんな月夜には、子供たちは何か夢みたいなことを考えがちでありました。 子供たちは小さい村から、半里ばかりはなれた本郷へ、夜のお祭を見にゆくところでした。 切通しをのぼると、かそかな春の夜風にのって、ひゅうひゃらりゃりゃと笛の音が聞えて来ました。 子供たちの足はしぜんにはやくなりました。 すると一人の子供がおくれてしまいました。 「文六ちゃん、早く来い」 とほかの子供が呼びました。 文六ちゃんは月の光でも、やせっぽちで、色の白い、眼玉の大きいことのわかる子供です。できるだけいそいでみんなに追いつこうとしました。 「んでも俺、おっ母ちゃんの下駄だもん」 と、とうとう鼻をならしました。なるほど細長いあしのさきには大きな、大人の下駄がはかれていました。
二
本郷にはいるとまもなく、道ばたに下駄屋さんがあります。 子供たちはその店にはいってゆきました。文六ちゃんの下駄を買うのです。文六ちゃんのお母さんに頼まれたのです。 「あののイ、小母さん」 と、義則君が口をとがらして下駄屋の小母さんにいいました。 「こいつのイ、樽屋の清さの子供だけどのイ、下駄を一足やっとくれや。あとから、おっ母さんが銭もってくるげなで」 みんなは、樽屋の清さの子供がよく見えるように、まえへ押しだしました。それは文六ちゃんでした。文六ちゃんは二つばかり眼ばたきしてつっ立っていました。 小母さんは笑い出して、下駄を棚からおろしてくれました。 どの下駄が足によくあうかは、足にあてて見なければわかりません。義則君が、お父さんか何ぞのように、文六ちゃんの足に下駄をあてがってくれました。何しろ文六ちゃんは、一人きりの子供で、甘えん坊でした。 ちょうど文六ちゃんが、新しい下駄をはいたときに、腰のまがったお婆さんが下駄屋さんにはいって来ました。そしてお婆さんはふとこんなことをいうのでした。 「やれやれ、ど
底本:「新美南吉童話集」岩波文庫、岩波書店
入力:浜野智 校正:浜野智
出典:青空文庫(https://www.aozora.gr.jp/cards/000121/card632.html)