花のき村と盗人たち
作者:新美南吉 約17分で読めます
一
むかし、花のき村に、五人組の盗人がやって来ました。 それは、若竹が、あちこちの空に、かぼそく、ういういしい緑色の芽をのばしている初夏のひるで、松林では松蝉が、ジイジイジイイと鳴いていました。 盗人たちは、北から川に沿ってやって来ました。花のき村の入り口のあたりは、すかんぽやうまごやしの生えた緑の野原で、子供や牛が遊んでおりました。これだけを見ても、この村が平和な村であることが、盗人たちにはわかりました。そして、こんな村には、お金やいい着物を持った家があるに違いないと、もう喜んだのでありました。 川は藪の下を流れ、そこにかかっている一つの水車をゴトンゴトンとまわして、村の奥深くはいっていきました。 藪のところまで来ると、盗人のうちのかしらが、いいました。 「それでは、わしはこの藪のかげで待っているから、おまえらは、村のなかへはいっていって様子を見て来い。なにぶん、おまえらは盗人になったばかりだから、へまをしないように気をつけるんだぞ。金のありそうな家を見たら、そこの家のどの窓がやぶれそうか、そこの家に犬がいるかどうか、よっくしらべるのだぞ。いいか釜右ヱ門。」 「へえ。」 と釜右ヱ門が答えました。これは昨日まで旅あるきの釜師で、釜や茶釜をつくっていたのでありました。 「いいか、海老之丞。」 「へえ。」 と海老之丞が答えました。これは昨日まで錠前屋で、家々の倉や長持などの錠をつくっていたのでありました。 「いいか角兵ヱ。」 「へえ。」 とまだ少年の角兵ヱが答えました。これは越後から来た角兵ヱ獅子で、昨日までは、家々の閾の外で、逆立ちしたり、とんぼがえりをうったりして、一文二文の銭を貰っていたのでありました。 「いいか鉋太郎。」 「へえ。」 と鉋太郎が答えました。これは、江戸から来た大工の息子で、昨日までは諸国のお寺や神社の門などのつくりを見て廻り、大工の修業していたのでありました。 「さあ、みんな、いけ。わしは親方だから、ここで一服すいながらまっている。」 そこで盗人の弟子たちが、釜右ヱ門は釜師のふりをし、海老之丞は錠前屋のふりをし、角兵ヱは獅子まいのように笛をヒャラヒャラ鳴らし、鉋太郎は大工のふりをして、花のき村にはいりこんでいきました。 かしらは弟子どもがいってしまうと、どっかと川ばたの草の上に腰をおろし、弟子どもに話したとおり、たばこをスッパ、ス
底本:「ごんぎつね・夕鶴 少年少女日本文学館第十五巻」講談社
入力:田浦亜矢子 校正:もりみつじゅんじ
出典:青空文庫(https://www.aozora.gr.jp/cards/000121/card630.html)