Nine 第四話

作者:コウケンド 約10分で読めます

Nine 第四話を縦書きで読む(Textfall)

やわらかな午後の春の光は、薄いレース越しに床へとこぼれていた。揺れるカーテンの向こうでは、街路樹が音もなく芽吹いている。午後の空気は、まだ少し冷たかったが、窓辺には確かに新しい季節の匂いがあった。 その日、ツェツィーリエが生まれた。一家にとって、それは冬の長さを忘れるほどの出来事だった。産声は小さく、やがて部屋に静けさが戻ると、その余韻は家中に長く残った。ヨハンナは言葉もなく、小さな命を見つめていた。 ベッド脇の椅子に腰を下ろしたまま、彼女はそっと眉を寄せ、やがてふふっと笑った。その笑みは、春の陽だまりに似ていた。力強くはないが、しずかに、心をゆるめる光のようだった。 その頃、2歳になったリヒャルトが階段を音を立てて上がってきた。足の裏がギシギシと床を鳴らす。 「ママ……」 ヨハンナが目をやると、彼は部屋の入り口付近で立ちすくんでいた。視線は母ではなく、腕の中の赤子に向けられていた。 「リヒャルト、妹よ」 ヨハンナはやさしく言った。その言葉を聞いても、彼はすぐには動かなかった。眉間にしわを寄せ、じっとその小さな天使を見つめていた。だがやがてゆっくりと歩み寄り、ベッドの脇に立つと、そっと手を伸ばした。ツェツィーリエの指が、彼の指をきゅっと握った。その瞬間、リヒャルトは驚いたようにまばたきをし、目を見開いた。 「……あったかい」 そう呟いたその声は、自分でも気がつかないほど、深い場所から出ていた。 * 兄となったリヒャルトは、日々成長していった。昼下がり、ツェツィーリエの布団の隣に寝そべっては、木片に紙を巻いた剣を手にし、王女さまを守るごっこ遊びをする。 「ツェツィーリエ、ここはあなたの王国だよ。ここがベッドの丘で、ここはおもちゃの谷。あそこが……寝返りの壁」 しゃがみ込んで懸命に指差すリヒャルトの声に、ツェツィーリエは 「あー」 と叫び、涎を垂らした。ある日は、机の上に広げた布をマントにし、 「王女さま、まもなく怪物が目を覚まします!…空腹まで、あと5分との報告!」 と叫びながら家中を走り回った。ツェツィーリエは笑い、手をばたつかせ、喜んだ。 その様子を見ていたヨハンナの眼差しは、どこか遠くを見つめるようだった。夫のカールを失ってからというもの、彼女の胸には大きな風穴が開いたような空白があった。けれど今、小さな命と、兄となったリヒャルトの姿が、その空白を少しずつ埋め

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